工務監督という仕事の構造分析①——利害関係者の交点

交点に立つ 仕事・キャリア

これまでこのブログでは、工務監督の日々の仕事や実体験を中心に書いてきた。今回からは趣向を変え、工務監督という職務を構造的に分析することを試みたい。日々の業務の積み重ねの中に、どのような構造が内在しているのかを、複数回に分けて検討していく。

1. はじめに——本稿の目的

工務監督という職種については、求人票や業務マニュアルの形で「何をする仕事か」が説明されることは多い。しかし、その業務がなぜそのような形をとっているのか、構造的な観点から論じられることは少ない。本稿では、これまで本ブログで取り上げてきた実例をもとに、工務監督という職務を特徴づける第一の要素として「利害関係者の交点に立つ」という構造を定義し、その内実を検討する。なお、本稿の内容は筆者の知る範囲——筆者が勤務する会社の体制と経験——に基づくものであり、業界全体を網羅的に論じるものではないことをあらかじめお断りしておく。

2. 工務監督の職務定義——「板挟みの専門職」という仮説

工務監督の業務を一言で定義するならば、「船という資産を、複数の立場の要求を満たしながら維持・管理する職務」と表現できる。

ここで注目すべきは、工務監督が単一の主体に対して責任を負う仕事ではないという点である。

  • 船を所有する会社
  • 船を運航させ収益を上げる営業部門
  • 実際に船を動かす乗組員
  • 造船所・検査機関・部品メーカーといった社外の関係主体

工務監督は、これら複数の利害関係者の間に立ち、各々の要求や事情を調整しながら職務を遂行する。本稿ではこれを「利害関係者の交点に立つ」という構造として定義する。

3. 事例分析——社内における構造の現れ

3.1 営業部との関係

この構造は、これまで本ブログで取り上げてきた社内の人間関係に明確に現れている。

船舶にトラブルが発生した場合、安全運航の可否に関する判断を下すのは工務部の権限であり責任だ。この判断に対し、他部門が異を唱える余地はない。一方で、不具合の原因究明や再発防止策の報告という段階では、営業部との間で見解の相違が生じる場面がある。営業部は顧客への説明責任を負う立場上、工務部の報告内容に強い関心を持つためである。入渠日程の調整についても、営業部からの変更要請という形で利害の衝突が表面化することがある。

工務部は安全運航という譲れない原則を維持しつつ、営業部の要望に対しても可能な範囲で応える姿勢が求められる。この日常的な調整プロセスこそが、利害関係者の交点に立つ職務の具体的な現れであると考えられる。

3.2 乗組員との関係

同様の構造は、乗組員との関係においても確認できる。

工務監督は会社の方針・予算という制約条件を前提としながら、現場で実際に船を動かす乗組員の要望や事情にも対応しなければならない。論理的な正しさのみを根拠に交渉を進めるのではなく、相手の主張を十分に聞いた上で、組織として実行可能な範囲を見極めていくという姿勢が要求される。この点も、複数の立場の間に立つ職務に特有の要請であると整理できる。

4. 内航海運業界における体制の多様性

ここで、筆者の知る範囲における体制と、業界全体の実態について整理しておきたい。

筆者の知る範囲では、一隻の船舶を担当する工務監督は基本的に一名であり、検査申請・不具合対応・入渠工事の段取りに至るまでを、一名の担当者が一貫して遂行する体制をとっている。これは、本ブログで取り上げた新造船建造プロセス入渠の各工程においても確認できる通りだ。建造監督としての図面承認から試運転までの一貫担当、入渠準備から出渠後の事務処理までの一貫対応——これらは、筆者の知る範囲における工務監督の標準的な業務形態を示す事例である。

ただし、これを内航海運業界全体の標準と捉えるべきではない。内航海運の事業者の大半は中小企業であり、その中には「一杯船主」と呼ばれる保有船舶1隻や数隻のみの零細事業者も多く存在する。こうした事業者の多くは、専任の工務監督を置く余力すらなく、保有船舶の保守管理や船員の雇用・配乗等を事業主自らが行っているのが実態だ。つまり、本稿で論じる「工務監督」という職務自体が、内航海運業界の中でも一定の事業規模を持つ会社にのみ成立する役割であり、業界全体を見渡せば、この職務が制度として確立していない事業者の方が多いと考えられる。想像ではあるが、整備や工事について造船所に一任しているケースもありそうだ。一方で、専門の船舶管理会社に管理を委託する流れも最近はあるという。

この点を踏まえると、本稿で扱う構造分析は、あくまで工務監督という専任職が組織内に存在する会社における実態の分析であり、内航海運業界全体を代表するものではないという前提を改めて確認しておきたい。

5. 専門性の出自に関する考察——機関部出身者の適正

これまで本ブログで繰り返し言及してきた通り、工務監督として最も適性が高いとされるのは、船舶および機械に関する実務知識を有する人材であり、その中でも機関部出身者が多数を占める。

この傾向には構造的な理由があると考えられる。工務監督の日常業務は、不具合対応・検査対応・整備計画といった、機関知識を前提とする業務が大部分を占める。乗組員からの不具合報告に対し、現場の状況を具体的にイメージできるか否かは、機関部における実務経験の有無に大きく依存する。
航海士出身者が工務監督に就くことを妨げる制度的障壁はないが、業務上要求される知識領域の偏りを踏まえると、機関部出身者が即戦力となりやすいという実態には、一定の合理性があると考えられる。

6. 小結

本稿では、工務監督という職務を構造的に検討し、その第一の特徴として「複数の利害関係者の交点に立つ」という性質を抽出した。会社・営業部・乗組員という社内の主体、および造船所・検査機関という社外の主体——その間に位置し、安全運航という原則を維持しながら調整を続けることが、本職務の基盤を成している。

ただしこれは、筆者の勤務先のように工務監督という専任職が確立している会社における実態であり、専任の工務監督を置けない事業者も多くある内航海運業界全体の姿ではないことを、改めて付言しておきたい。次稿では、本職務を特徴づけるもう一つの要素である「外部環境依存型」という性質について、これまでの実務経験を踏まえて検討する。

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