船のドック(入渠)は、突然始まるわけではない。その裏には、数ヶ月にわたる準備がある。今回から数回に分けて、入渠の流れを工務監督の視点から解説していきたい。第1回は「準備編」として、入渠が決まってから造船所に向かうまでの流れを紹介する。
入渠準備の流れ
前年度から始まる準備
入渠の準備は、前年度に予算を作成する時から始まる。翌年度に入渠させる船を洗い出し、造船所に予定を伝えるところがスタートだ。同時に、入渠予算も作成する。
造船所との入渠時期のすり合わせが終わると、次のフェーズに移る。
入渠3ヶ月前ーー工事仕様書の作成開始
担当の工務監督は、入渠させる船に対して工事仕様書の作成を依頼する。
仕様書にはあらかじめ、検査で必要な工事項目を入力しておく。船は、それ以外の修繕工事をリストアップして、工務監督に提出する。
入渠約2ヶ月前ーー見積依頼
船から工事仕様書を受領した工務監督は、訪船してリスト内容を確認し、現状を把握するとともに、どのような工事をしなければならないかを検討する。
並行して、造船所、部品・塗料代理店、メーカーなどに見積もりを依頼する。造船所は、見積もり作成のために、技師が船に訪船して工事個所を調査する場合もある。
工事内容のすり合わせ
見積もりが揃ったら、船員とコミュニケーションをとりながら工事内容を決めていく。
基本は予算内に収まるようにする。時に船員からの過剰な要求が含まれる場合もある。一方で安全運航のためにはどうしても外せない工事もある。予算を超えてでもやらなければならない修繕工事については、その必要性を社内に説明し承認を得る。
潤滑油の分析
船から潤滑油のサンプルを陸揚げする。その潤滑油を専門機関で分析し、異常がないかを確認する。
潤滑油の劣化が進んでいれば、入渠のタイミングで潤滑油の入れ替えも検討しなければならない。また分析結果は、次の検査官との打ち合わせでも重要な資料になる。
入渠約1ヶ月前ーー検査官との事前打ち合わせ
入渠の約1ヶ月前には、検査官との事前打ち合わせを行う。潤滑油の分析結果・エンジンの運転時間・冷却水の管理表のコピーなどを提示しながら、実際に検査する内容を確認していく。
この打ち合わせが重要だ。事前にきちんとすり合わせをしておかなければ、当日の検査で「省略できると思っていた項目が省略できない」という事態が起きかねない。工程の乱れに直結するため、念入りに準備しておく必要がある。
入渠1〜2週間前ーー工程のすり合わせ
入渠の1〜2週間前になると、工事内容は確定している。工事や見積もりの内容を最終確認し、稟議書を出し終え、各所への発注をかけ始めるころだ。
この時期になると、営業部から入渠日の変更依頼が来ないことを祈る。造船所の工程は他の入渠船とも絡んでいる。日程が変われば、多方面に影響が出る。
造船所から提出された工程表を確認しながら、工程の詳細を詰めていく。何時に造船所に着けばいいか。上架はいつか。検査の日程はどうなっているか。手配忘れはないか。発注した資材の納品に遅れはないか。——細かい段取りを一つひとつ確認していく地味な作業が続く。
入渠は準備が8割
ドックで船を上げてから何かに気づいても、遅い。部品の手配、工事の段取り、検査の準備——すべては事前にどれだけ準備できたかで決まる。
工務監督にとって入渠の成功は、その何ヶ月も前からの地道な準備にかかっている。
次回は、造船所に到着してからの工務監督の動きを解説する。


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