船舶検査とは、船が航行するために必要な構造や設備について、国などが基準への適合性を確認する制度である。
国土交通省の資料では、船舶安全法について次のように説明されている。
船舶の堪航性及び人命の安全を確保することを目的として定められた船舶安全法は、船舶の構造・設備に関する技術基準を定め、船舶の就航前及び就航後の一定期間ごとにこの基準への適合性を確認するため、船舶所有者が検査(定期的検査)を受検することを義務付けている。
この記事では、船舶検査の種類と流れについて、法律上の根拠を確認しながら、現役工務監督の視点で整理する。
船舶検査はなぜ必要なのか
船舶検査の出発点の、船舶安全法第1条には、次のように定められている。
日本船舶は、船舶安全法に基づき、堪航性を保ち、人命の安全を保つために必要な設備を備えていなければ、航行の用に供することができない。
ここで重要なのは、船舶安全法が単に「検査を受けなさい」と言っているだけではない点である。
法律の目的は、次の通りである。
- 船の堪航性を保持すること
- 人命の安全を保持すること
船舶検査は、この目的を実現するための確認手段である。
何を検査するのか
船舶安全法第2条では、船舶が備えるべき施設について定めている。
条文では、次のように列挙されている。
船舶ハ左ニ掲グル事項ニ付国土交通省令ノ定ムル所ニ依リ施設スルコトヲ要ス
一 船体
二 機関
三 帆装
四 排水設備
五 操舵、繋船及揚錨ノ設備
六 救命及消防ノ設備
七 居住設備
八 衛生設備
九 航海用具
十 危険物其ノ他ノ特殊貨物ノ積附設備
十一 荷役其ノ他ノ作業ノ設備
十二 電気設備
十三 前各号ノ外国土交通大臣ニ於テ特ニ定ムル事項
ここから分かるように、船舶検査の対象は船体だけではない。
船体、機関、排水設備、操舵設備、救命設備、消防設備、航海用具、電気設備など、船を安全に運航するために必要な広い範囲が対象になる。
工務監督の実務でも、船舶検査は単に「検査官に船を見てもらう日」ではない。
機関室、甲板、船底、救命設備、書類、記録類まで含めて、船全体を確認する作業になる。
船舶検査の法的根拠
船舶検査の中心となる条文は、船舶安全法第5条である。
同条は、船舶所有者が受けるべき検査の種類を定めている。
船舶所有者ハ第二条第一項ノ規定ノ適用アル船舶ニ付同項各号ニ掲グル事項、第三条ノ船舶ニ付満載吃水線、前条第一項ノ規定ノ適用アル船舶ニ付無線電信等ニ関シ国土交通省令ノ定ムル所ニ依リ左ノ区別ニ依ル検査ヲ受クベシ
つまり、船舶所有者は、船体、機関、救命設備、消防設備、満載喫水線、無線設備などについて、国土交通省令で定めるところにより検査を受けなければならない。
同条では、その検査を次の5種類に分けている。
船舶検査の種類
船舶安全法第5条では、主な船舶検査として次の5種類が定められている。
| 検査の種類 | 内容 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 定期検査 | 初めて航行の用に供するとき、または船舶検査証書の有効期間が満了したときに受ける精密な検査 | 船舶安全法第5条第1項第1号 |
| 中間検査 | 定期検査と定期検査の間に受ける簡易な検査 | 船舶安全法第5条第1項第2号 |
| 臨時検査 | 改造、修理、条件変更などがある場合に受ける検査 | 船舶安全法第5条第1項第3号 |
| 臨時航行検査 | 船舶検査証書を持たない船舶を臨時に航行させる場合に受ける検査 | 船舶安全法第5条第1項第4号 |
| 特別検査 | 一定の範囲の船舶について、国土交通大臣が特に必要と認めた場合に行う検査 | 船舶安全法第5条第1項第5号 |
条文では、それぞれ次のように規定されている。
一 初メテ航行ノ用ニ供スルトキ又ハ第十条ニ規定スル有効期間満了シタルトキ行フ精密ナル検査(定期検査)
二 定期検査ト定期検査トノ中間ニ於テ国土交通省令ノ定ムル時期ニ行フ簡易ナル検査(中間検査)
三 第二条第一項各号ニ掲グル事項又ハ無線電信等ニ付国土交通省令ヲ以テ定ムル改造又ハ修理ヲ行フトキ、第九条第一項ノ規定ニ依リ定メラレタル満載吃水線ノ位置又ハ船舶検査証書ニ記載シタル条件ノ変更ヲ受ケントスルトキ其ノ他国土交通省令ノ定ムルトキ行フ検査(臨時検査)
四 船舶検査証書ヲ受有セザル船舶ヲ臨時ニ航行ノ用ニ供スルトキ行フ検査(臨時航行検査)
五 前各号ノ外一定ノ範囲ノ船舶ニ付第二条第一項ノ国土交通省令又ハ国土交通省令・農林水産省令ニ適合セザル虞アルニ因リ国土交通大臣ニ於テ特ニ必要アリト認メタルトキ行フ検査(特別検査)
定期検査とは
定期検査は、船舶検査の中で最も基本となる検査である。
船舶安全法第5条では、定期検査を次のように定めている。
初メテ航行ノ用ニ供スルトキ又ハ第十条ニ規定スル有効期間満了シタルトキ行フ精密ナル検査(定期検査)
つまり定期検査は、
- 新造船などを初めて航行させるとき
- 船舶検査証書の有効期間が満了したとき
に受ける精密な検査である。
定期検査に合格すると、船舶検査証書が交付される。
船舶検査証書がなければ航行できない
国土交通省の資料では、船舶検査制度について次のように説明されている。
定期的検査のうち定期検査に合格した船舶には、船舶の航行上の条件を定めた船舶検査証書を交付することとされており、有効な証書を受有しない船舶は、航行することが禁止されている。
つまり、有効な船舶検査証書を持たない船舶は、原則として航行することができない。
船舶検査証書について、船舶安全法第9条第1項は次のように定めている。
管海官庁ハ定期検査ニ合格シタル船舶ニ対シテハ其ノ航行区域(漁船ニ付テハ従業制限)、最大搭載人員、制限汽圧及満載吃水線ノ位置ヲ定メ船舶検査証書及船舶検査済票(小型船舶ニ限ル)ヲ交付スベシ
ここで重要なのは、船舶検査証書が単なる合格証ではないという点である。
船舶検査証書には、
- 航行区域
- 最大搭載人員
- 制限汽圧
- 満載喫水線の位置
など、その船がどの条件で航行できるかを示す基本書類だからだ。
中間検査とは
中間検査は、定期検査と定期検査の間に行われる検査である。
船舶安全法第5条では、次のように定めている。
定期検査ト定期検査トノ中間ニ於テ国土交通省令ノ定ムル時期ニ行フ簡易ナル検査(中間検査)
ここでいう「国土交通省令」とは、船舶安全法施行規則である。
中間検査の種類については、船舶安全法施行規則第18条第1項で次のように定められている。
中間検査の種類は、第一種中間検査、第二種中間検査及び第三種中間検査とする。
同条では、第一種中間検査、第二種中間検査、第三種中間検査を、検査する内容によって区分している。
例えば、第一種中間検査に関係する検査として、次のように定められている。
*次の条文の法とは、船舶安全法。
法第二条第一項第一号、第二号、第四号、第五号及び第十一号から第十三号までに掲げる事項について行う船体を上架すること又は管海官庁がこれと同等と認める準備を必要とする検査
また、第三種中間検査に関係する検査として、次のように定められている。
法第二条第一項第三号、第七号及び第八号に掲げる事項について行う検査
ここでいう法第2条第1項第3号は「帆装」、第7号は「居住設備」、第8号は「衛生設備」である。なお、実務上の中間検査の内容は、船種・設備・検査区分により異なるため、個別の検査内容は検査機関との事前確認が必要である。
中間検査の詳しい種類、時期、第一種・第二種・第三種の内容については、別記事で詳しく整理する。
中間検査の時期
船舶安全法施行規則第18条に、中間検査の時期が定められている。
例えば、
法第10条第1項ただし書に規定する船舶以外の船舶について、同条第2項は次のように定めている。
法第十条第一項ただし書に規定する船舶以外の船舶の中間検査の時期は、次表のとおりとする。
同表では、船種ごとに中間検査の時期が定められている。
例えば、「その他の船舶」については次のように定められている。
その他の船舶 第一種中間検査 船舶検査証書の有効期間の起算日から二十一月を経過する日から三十九月を経過する日までの間
また、平水区域船や一定の小型船舶など、船舶安全法第10条第1項ただし書に規定する船舶については、同条第4項で次のように定められている。
法第十条第一項ただし書に規定する船舶の中間検査は第一種中間検査とし、その時期は船舶検査証書の有効期間の起算日から三十三月を経過する日から三十九月を経過する日までの間とする。
実務上は、船舶検査証書の有効期間、船種、航行区域、設備構成によって受検時期が変わる。
そのため、工務監督としては、船舶検査手帳や検査証書を確認し、次回検査時期を早めに把握しておくことが重要である。
臨時検査とは
臨時検査は、改造、修理、設備の変更などがあった場合に受ける検査である。
船舶安全法第5条第1項第3号では、次のように定められている。
第二条第一項各号ニ掲グル事項又ハ無線電信等ニ付国土交通省令ヲ以テ定ムル改造又ハ修理ヲ行フトキ、第九条第一項ノ規定ニ依リ定メラレタル満載吃水線ノ位置又ハ船舶検査証書ニ記載シタル条件ノ変更ヲ受ケントスルトキ其ノ他国土交通省令ノ定ムルトキ行フ検査(臨時検査)
日本小型船舶検査機構(JCI)も、臨時検査について次のように説明している。
臨時検査 改造、修理または設備の新替えなどを行ったときに受ける検査です。
実務上、臨時検査が関係しやすいのは、例えば次のような場合である。
- 船体構造に影響する改造や修理を行う場合
- 主機や機関の主要部を取り替える場合
- 航行区域や最大搭載人員など、船舶検査証書に記載された条件を変更する場合
- 海難や火災などにより、船体や機関の主要部に重大な損傷を受けた場合
臨時検査は、定期検査や中間検査のように決まった周期で受ける検査ではない。必要が生じたときに、随時受ける検査である。
臨時航行検査とは
臨時航行検査は、船舶検査証書を持たない船舶を、一時的に航行させる場合に受ける検査である。
船舶安全法第5条第1項第4号では、次のように定められている。
船舶検査証書ヲ受有セザル船舶ヲ臨時ニ航行ノ用ニ供スルトキ行フ検査(臨時航行検査)
JCIも、臨時航行検査について次のように説明している。
臨時航行検査 船舶検査証書の交付を受けていない船舶を臨時に航行させるときに受ける検査です。
実務上は、例えば次のような場面が考えられる。
- 新造船を試運転などのために一時的に航行させる場合
- 船舶検査証書のない船を受検地まで回航する場合
臨時航行検査は、通常の船舶検査証書がない状態で一時的に航行させるための検査であり、工務監督としても新造船や回航時に関係することがある。
誰が船舶検査を行うのか
船舶検査を行う機関は、船の大きさによって異なる。
JCIは、次のように説明している。
総トン数20トン未満の船舶を「小型船舶」といい、小型船舶の検査と登録は日本小型船舶検査機構(JCI)が国の代行機関として実施しています。
また、四国運輸局の説明では、次のように整理されている。
国土交通省では、総トン数20トン以上の船舶を対象とした検査を行っています。
(総トン数20トン未満の船舶については、日本小型船舶検査機構(JCI)が担当しています)
整理すると、次のようになる。
| 船舶の区分 | 主な検査機関 |
|---|---|
| 総トン数20トン以上の船舶 | 国、地方運輸局、運輸支局、海事事務所など |
| 総トン数20トン未満の小型船舶 | 日本小型船舶検査機構(JCI) |
なお、船級協会の検査を活用する制度も存在する。
国土交通省の資料では、検査の合理化制度について次のように説明されている。
船舶検査を円滑に実施するための予備検査制度や型式承認制度、民間能力を活用するための認定事業場制度や小型船舶検査機構及び船級協会の検査の活用等の合理化制度が設けられている。
このように、船舶検査は国だけでなく、JCIや船級協会などの制度とも関係している。
工務監督は船舶検査にどう関わるのか
工務監督が主に関わるのは、定期検査と中間検査である。
これらの検査は、ドック入渠や修繕工事と合わせて実施されることが多い。工務監督は、検査の前から造船所、メーカー、検査機関、船側と調整を行い、必要な準備を進める。
船舶検査は、当日だけ対応すればよいものではない。
実務上は、むしろ事前準備の方が重要である。
例えば、次のような資料を準備する。
- 船舶検査証書
- 船舶検査手帳
- 船舶国籍証書
- 機関の運転時間記録
- 潤滑油分析結果
- 冷却水管理記録
- 整備記録
- メーカー整備報告書
これらの資料が整理されていれば、検査官との事前打ち合わせもスムーズになる。
また、整備記録や運転記録によって機器の状態を説明できれば、検査の一部について省略や簡略化が認められる場合もある。
船舶安全法には、予備検査や認定事業場制度など、検査の合理化に関する制度も設けられている。
工務監督の仕事は、検査で指摘を受けてから対応することではない。
日常の保守管理、記録管理、事前調整によって、検査を円滑に進めることが重要である。
検査当日に重要なこと
検査当日、工務監督は検査官、造船所、船側との間に立って、現場が円滑に進むよう調整する。
検査官が確認する機器や書類をすぐに提示できるようにしておくこと。開放した部品を整理して並べ、確認しやすい状態にしておくこと。作動試験の準備を整えておくこと。
こうした準備は地味に見えるが、検査の進行に大きく影響する。
検査そのものは検査官が行う。しかし、検査を受ける側の準備が不十分であれば、確認に時間がかかり、工期全体に影響する。
工務監督にとって船舶検査は、単に「検査に立ち会う仕事」ではなく、検査を予定通りに終わらせるための工程管理でもある。
関連記事との役割分担
この記事では、船舶検査制度全体の考え方、法的根拠、検査の種類、検査機関、船舶検査証書、工務監督の関わりを整理した。
一方で、定期検査と中間検査の具体的なインターバル、第一種・第二種・第三種中間検査の内容、検査項目の比較、検査の省略制度などは、別記事で詳しく扱う。
本記事は、船舶検査カテゴリの入口記事であり、制度全体を理解するための案内役である。
まとめ
船舶検査とは、船舶が安全に航行するために必要な構造・設備を備えているかを、法律に基づいて確認する制度である。
その根拠は船舶安全法にある。
船舶安全法第1条
堪航性と人命の安全を保持するために必要な施設を備えなければ、船舶を航行の用に供することができないと定めている。
船舶安全法第5条
定期検査、中間検査、臨時検査、臨時航行検査、特別検査という検査区分を定めている。
船舶検査に合格すると船舶検査証書が交付され、その証書には航行区域や最大搭載人員などの航行上の条件が定められる。
工務監督の立場から見ると、船舶検査で重要なのは当日の立会いだけではない。
日常の整備記録、運転記録、事前打ち合わせ、ドック工程との調整こそが、検査を円滑に進めるための鍵になる。



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