機関長と工務監督——陸と船、本音の関係論

柔道 工務監督の仕事

工務監督と機関長。この二者の関係は、船の管理をうまく回すうえで非常に重要だ。指揮命令系統としては工務監督が上位に位置するが、それだけで関係が決まるわけではない。今回は、この関係について工務監督の立場から率直に書いてみたい。

関係性を決めるのは立場だけではない

工務監督と機関長の関係に影響を与えるファクターは多岐にわたる。年齢や経験の差、個人としての相性、そして経歴もそのひとつだ。

例えば、同じ会社で船員から工務監督に転身した場合、かつての同僚である船員たちからの評価がそのまま引き継がれることがある。船員時代に信頼されていた人間は、工務監督になっても自然と一目おかれる。逆もしかりで、極端な場合は船員に使われる立場なってしまう。それではうまく船を管理する事はできない。

一方、新卒や中途で工務監督になった場合は、イチから関係性を築いていく必要がある。機関長は人となりをよく見ている。まずは一生懸命勉強し、知ろうという姿勢、わからないことは教えてもらう姿勢を持つことが大切だ。知ったかぶりはよくない。後々自分自身の首を絞めることになる。人見知りだからできないということもない。人見知りな機関長も沢山いる。ずけずけと踏み込んでいくことがいいわけでもなく、相手のペースを見ながら少しずつ距離を縮めていくことが大切だ。

工務監督にも様々なタイプがいる。機関長にも様々なタイプがいる。その組み合わせによって、関係性は千差万別だ。

関係がうまくいくと、仕事が動く

あたりまえだが、関係がうまくいっているとき、仕事は前に進みやすい。機関長が本音を話してくれるようになる。表向きの報告ではなく、「実はこういう状況で」という踏み込んだ情報が入ってくる。これが工務監督にとってどれだけ大きいか——先日の記事「不具合対応は情報戦だ」でも触れたが、情報の質が仕事の質を決める。

逆に関係がうまくいっていないとき、お互い折れるところがなくなる。話が前に進まない。強権を発動することも手段としてはあるが、それをやればギクシャクしたものになる。仮に目の前の問題が解決したように見えても、その後の関係に影を落とす。

一目おかれるために——まず船と機械を知る

機関長との関係を良くするために、まず意識しているのは船と機械のことをよく知ることだ。技術的・運用的な部分で対等以上に話せるようになると、「こいつは船のことがわかっている」と一目おいてもらえる。

工務監督は陸上にいる。機関長は船の上で毎日機械と向き合っている。その差を埋めるのは、勉強と経験の積み重ねしかない。知識がなければ、機関長の話を正しく理解することもできないし、適切な判断もできない。

正論で攻めてもいいことは一つもない

もうひとつ、強く意識していることがある。正論で攻めないことだ。

正論は正しい。しかし正しいことを正面からぶつけても、人は動かない。むしろ構えてしまう。これは工務監督と機関長の関係に限らず、仕事全般に通じる話だと思っている。

柔よく剛を制す——本音を引き出す技術

では正論の代わりに何をするか。まず機関長の話をよく聞くことだ。言いたいことはすべて言ってもらう。全てを真に受ける必要はない。経験のないうちは、全ての要求に応えなければならないと思いがちだが、そもそもそれは無理だ。

話を聞きながら、少し言葉を変えて言い換えながら会話を重ねていく。そうすると、本当に望んでいるものが見えてくる。そこを捕まえて、会社としてできることとできないことを整理していく。

時に熱くなる機関長もいる。そんなときは真っ向から立ち向かわず、寄り添いながら少し角度の違う言葉を投げかけてみる。ずるい方法のように見えるかもしれないが、そうは思っていない。ほとんどの人は、自分が少し言い過ぎていることを自覚している。工務監督の立場も理解してくれている。ただ、陸上の会社の人間と話す機会は少ない。その限られた時間に、思いのたけを吐き出す人もいる。こちらは柔よく剛を制すのスタンスで受け流しながら、彼らの本音を探っていく。

結局は人と人だ

機関長との関係は、指揮命令系統だけでは語れない。船を知り、相手の話を聞き、本音を引き出す。その積み重ねが、陸と船の間に信頼をつくっていく。結局は人と人の関係だ。それはどんな立場でも変わらない。

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