ドックの立ち会い、訪船、造船所との交渉——工務監督の仕事は「動いている場面」が目立ちがちだ。しかし実際には、仕事の多くは事務所の中にある。今回は、あまり語られることのない事務所での仕事について書いてみたい。
入渠準備——見積もりから稟議まで
工務監督はそれぞれ、担当する船を抱えている。入渠予定の船があれば、事務所での準備が始まる。
まず工事仕様書の確認だ。どの機器をどう整備するか、何を交換するかを精査する。検査項目を、検査機関と打ち合わせをする。内容が固まれば、各業者に見積もりを依頼する。複数の業者から出てきた見積もりを比較し、金額の妥当性を検証する。高すぎないか、作業内容と金額が見合っているか——ここは経験と知識がものをいう場面だ。
工程の確認も重要な作業だ。船はいつまでにドックを出なければならない。その逆算で工事のスケジュールを組み、造船所やメーカーの担当者とメール・電話でやり取りを重ねる。金額が確定すれば稟議を作成して社内に回覧し、入渠が終われば工事報告書と費用の取りまとめを行う。
地味に見えるが、この積み重ねや入念な段取りが、入渠をスムーズに動かす土台になる。
不具合対応——原因究明と再発防止
担当船で不具合が発生すれば、その対応も事務所から始まる。
営業部や各業者と日程を調整し、修理の段取りをつける。工事が終われば、なぜその不具合が起きたのかを掘り下げる。原因を特定し、再発防止策を検討して記録に残す。これが次の不具合を未然に防ぐことにつながり、仮に再発した場合でも、過去事例をもとに迅速に対応することができる。
船用品・部品の手配
各船から上がってくる注文書の対応も事務所の仕事だ。何を、どれだけ、どこに届けるか。注文内容の妥当性を確認し、手配を進める。世界中を走る船に必要なものを届けるための、地道な調整作業だ。
腕の見せどころ——もつれた話を解きほぐす
事務所の仕事で最も難しいのは、話がもつれたときだ。
複数の関係者が絡み、利害が交錯し、話が前に進まなくなる場面がある。そういうとき、工務監督は焦らずじっくりと状況を整理し、慎重に糸口を探る。あせったり、大騒ぎしてはいけない。誰が何を求めているのか。どこに折り合いをつければ動き出すのか。少しずつほぐしていくと、ある瞬間に話が動き始める。その瞬間に、この仕事の面白さを感じる。
現場の緊張感とは異なるが、事務所にも確かに腕の見せどころがある。
新人が最初に苦労すること
事務所の仕事は、決して簡単なものではない——新人工務監督にとっては特にそうだ。
理由は単純で、前例が頭に入っていないからだ。見積もりの妥当性を判断するにも、工程の現実的なラインを見極めるにも、経験の積み重ねが必要になる。関係者との距離感や、誰がどう動く人なのかという感覚も、実際に経験して初めてわかるものだ。
頭で理解することと、体で感じることは違う。マニュアルを読めばわかることと、現場で身につくことは別物だ。新人が最初に直面するのは、その「感覚的なもの」がまだ自分の中にないという壁だ。
裏を返せば、その感覚が少しずつ身についていく過程が、工務監督として成長していく過程でもある。
見えない仕事が船を動かす
ドックも訪船も、その裏には事務所での膨大な準備がある。見えない仕事が、船を動かしている。それが工務監督という仕事の実態だと思っている。



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