船にスターリンクがやってくる——通信革命は船の世界を変えるか

時事・ニュース解説

スターリンクという言葉を聞いたことがあるだろうか。イーロン・マスク率いるSpaceXが展開する衛星インターネットサービスだ。低軌道に打ち上げた多数の衛星を使い、山間部や海上など従来の通信インフラが届かない場所でも高速インターネットを可能にする技術だ。日本郵船がすでに100隻以上に導入しているというニュースが話題になっている。今回は、この技術が船の世界にどんな変化をもたらすのかを考えてみたい。

今の船の通信事情

まず、現在の船の通信がどういう状況かを整理しておきたい。

内航船には船舶電話の搭載が義務付けられている。そのため、電波が届く範囲であれば外洋でも電話が使える。オプションでFAXをつければFAXも使える。ただし、あくまで音声とFAXの話だ。データ通信はできない。

つまり、船が港を離れると、船員はインターネットにつながれない環境に入る。プライベートのスマホも、仕事のメールも、使えなくなる。陸上では当たり前のように使っているものが、一切使えない世界だ。現代において、これはかなり特殊な環境といえる。

外航船にも通信手段はあるが、データ通信のコストや速度に課題があるケースが多い。衛星電話や従来の海事通信システムは高コストで、気軽にメールや動画をやり取りできるものではなかった。

不具合対応が変わる

スターリンクが船に普及したとき、工務監督目線でまず変わるのは不具合対応だと思う。

船で機器のトラブルが発生したとき、現在は電話でやり取りをしながら状況を把握することになる。言葉で説明しにくい不具合もある。「どこから油が漏れているか」「どんな異音がしているか」——これを電話だけで正確に伝えるのは難しい。

データ通信ができれば、写真や動画をリアルタイムで事務所に送れる。何が起きているのかが格段に伝わりやすくなる。工務監督としての判断も、より正確に、より早くできるようになるはずだ。部品の手配や業者の手配も、状況を正確に把握した上で動けるため、無駄が減る。

ただし、通信の質が上がっても、訪船の頻度が変わるとは思っていない。写真や動画でわかることと、実際に目で見て手で触れてわかることは別物だ。データ通信はあくまで情報の質を上げる道具であり、現場に行くことの代替にはならない。

事務作業の効率が上がる

船陸間書類の処理も変わるだろう。

スターリンクがあれば、電子データをタイムリーに送ってもらえる。日報や各種報告書をリアルタイムで受け取れれば、事務所側の処理も平準化できる。締め切りに追われることも減り、業務全体の流れがスムーズになる。

また、船側からの問い合わせや確認事項も、メールでやり取りできるようになる。電話で説明しにくい複雑な内容も、図面や資料を添付して送れるようになれば、認識のズレが減る。地味なようで、日々の積み重ねとしては大きな変化だ。

船員の生活が変わる

工務監督の仕事以上に変化が大きいのは、船員の生活かもしれない。

プライベートのスマホが使えるようになれば、家族や友人と連絡が取れる。動画を見たり、SNSを使ったりもできる。陸上と変わらない通信環境が、船の上に生まれる。乗船中も家族の顔をビデオ通話で見られる——それだけで、船員の精神的な負担はかなり軽くなるはずだ。

これは特に若い船員へのアピールになると思う。「船に乗ると外界と切り離される」というイメージは、船員不足の一因でもある。スターリンクはその壁を取り除く可能性がある。船という職場の魅力を高める意味でも、この技術の普及は業界全体にとってプラスだと思っている。

船のサイバーセキュリティという新たな課題

一方で、インターネット接続が当たり前になると、新たな課題も生まれる。それがサイバーセキュリティだ。

陸上の企業でも、サイバー攻撃の被害が後を絶たない。船がインターネットに常時接続されれば、航海システムや機器制御システムへの不正アクセスのリスクが高まる。実際、楽天シンフォニーと船舶サイバーセキュリティ企業の連携など、業界でもこの問題への対応が始まっている。

通信が豊かになる分、守るべきものも増える。スターリンク導入と並行して、セキュリティ対策の整備も求められる時代になってきた。

海の世界にも、時代の波が来ている

スターリンクは、船の世界に「つながる当たり前」をもたらしつつある。不具合対応の迅速化、事務作業の効率化、船員の生活の質の向上——変化の方向は前向きだ。海の仕事は陸から遠い世界に見えるかもしれないが、技術の波は確実にここにも届いている。

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