「入渠」という言葉を聞いたことがありますか。船の仕事をしている人には当たり前の言葉ですが、業界の外ではほぼ知られていません。この記事では、入渠とは何か、工務監督の視点から解説します。
入渠とは何か
入渠とは、船が造船所に入ることです。車でいうところの車検や整備のために工場に入れるイメージに近いですが、規模も複雑さもまったく異なります。
船はクレーンで持ち上げて陸に上げることができません。自重で折れてしまうからです。そのため船底の検査や修理をするには、船を上架できる造船所に入れる必要があります。
入渠は大きく2種類
入渠には大きく検査入渠と修繕入渠があります。ただし実際にはほとんどの場合、検査入渠に合わせてさまざまな修繕工事を同時に行います。まとまった修理時間を取れるのが検査入渠のタイミングだからです。
検査入渠——船の「車検」
船には法律で定められた検査があります。検査を行うのはJG(国土交通省)またはNK(日本海事協会)です。
JGは国土交通省による公的な検査機関です。NKは日本唯一の船級協会で、民間機関ながら国際的に高い信頼を持っています。国際航海を行う船はNKの検査を受けることが多いです。
検査には中間検査と定期検査があります。航行区域によって若干期間が異なりますが、主には船が就航してから2.5年目に中間検査、5年目に定期検査を受ける必要があり、以降それを繰り返します。この検査に合格しなければ、船として動かすことができません。
入渠中に行われる主な工事
主な工事は以下のようなものです。
船底塗装は最も典型的な工事のひとつです。船底には海洋生物が付着しやすく、放置すると船の抵抗が増して燃費が悪化します。防汚塗料を塗り直すことで性能を維持します。
機器類の開放検査も重要な工事です。主機や発電機などの内燃機関を開放して内部の状態を確認します。入渠するまで何の問題もなく動いていた機器でも、開放してみると交換が必要な部品が出てくることがあります。例えば主機の主軸受けメタルが想定以上に摩耗しているというケースがあります。
その他にも、プロペラや舵の点検・修理、バラストタンクの腐食確認、配管の修繕など、航海中にはできない工事を一気に行います。
組み上げた後の緊張
開放した機器を組み上げた後の試運転も緊張の場面です。油や清水が漏れる、制御がなぜかうまくいかない——そういった不具合が出ることがあります。ほとんどはその場で修理して解決できますが、まれに入渠期間が延びることもあります。
入渠期間が延びると、最も影響を受けるのが営業スケジュールです。出渠日を前提に予定が組まれているため、延びることで連鎖的に影響が広がります。工務監督にとって、予定通りに出渠させることは大きな責務のひとつです。
修繕のためだけの入渠という判断
船に不具合が発生したとき、工務監督が判断しなければならないことがあります。次の検査入渠まで持たせることができるのか、それとも今すぐ修繕のためだけに入渠する必要があるのか。この判断も工務監督の仕事です。


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