先日の利島沖RORO船「にらいかないⅡ」の座礁事故を取り上げた記事の中で、船主が保険会社に連絡するという話に触れた。船にはどんな保険が掛けられているのか。今回は、船に関する保険の種類と概略を整理したい。なお、筆者が実務で直接関わるのは船体保険に限られるため、P&I保険などについてはWEB上の公開情報をもとに解説する。
工務監督と船体保険の関わり
実務で直接関わるのは船体保険
工務監督の職務の範囲は、管理している船舶なので、船体保険は直接取り扱う事がある。
- プロペラに流木等を巻き込み、ダイバーを入れたり、プロペラの曲げ直しをする場合。
- 主機や推進器に損傷があった場合で、大きい費用が発生する場合。
大まかな手続き
損傷などが発生した場合、下記の手続きを進めて行く。
- 保険会社に、電話・メールでトラブルの速報を入れる。
- 記事を記入した航海日誌と、同文をコピーした海難報告書や損傷報告書を、最寄りの運輸局に提出して、それぞれに押印をもらう。運輸局に提出する際に、係官と記事の読み合わせをする。
窓口で声を出して記事を読み上げるので、少しはずかしい思いをする。 - 損傷報告書を保険会社に提出する。
- 工事の現場に、保険会社のサーベイヤーが検査にくる。
- 工事の費用が確定したら、保険会社に提出して査定が行われる。ここで保険金が確定する。
保険金に関する交渉はここで行う。 - 保険金から免責額を差し引かれたものが、保険会社から支払われる。
免責額とは、事故時において、保険会社が支払わない一定額を被保険者(船主側)が負担する仕組み。
例えば、修繕費が1,000万円で免責額が200万円の場合、
保険金として支払われるのは800万円となり、200万円は船主負担となる。
事故が発生した際には損害状況を詳細に記録し、保険会社に正確に報告することが工務監督の重要な役割だ。また日頃の整備記録をきちんと残しておくことが、免責事項(欠陥・腐食など自然の消耗による損害)をめぐるトラブルを防ぐことにもつながる。保険は入っているだけでなく、適切に機能させるための日常管理が不可欠だということを、実務を通じて感じている。
次は、船に関する保険についてまとめてみた。
船に関する保険の全体像
船舶保険は一般に「船体(物的損害)」「賠償責任」「収益補償」の3つの層で構成されると理解すると分かりやすい。
| 保険の種類 | 補償対象 | 引受主体 |
|---|---|---|
| 船体保険(船舶普通期間保険) | 船そのものの損傷・修繕費 | 損害保険会社 |
| P&I保険(船主責任保険) | 第三者への賠償責任・費用 | 相互保険組合(P&Iクラブ) |
| 貨物保険 | 輸送中の積み荷 | 損害保険会社 |
| 不稼働損失保険 | 修繕中の経済的損失 | 損害保険会社 |
| 戦争保険 | 戦争・機雷などによる損害 | 損害保険会社 |
今回の利島座礁事故との関連で整理すると次の通りだ。
| 損害の種類 | 対応する保険 |
|---|---|
| 船体の損傷・修繕費 | 船体保険 |
| サルベージ費用・残骸撤去 | P&I保険 |
| 油流出による環境汚染・賠償 | P&I保険 |
| 積み荷(トレーラー・自動車・建設機械)の損傷 | 貨物保険 |
船体保険——工務監督が最も関わる保険
船体保険(船舶普通期間保険)は、船そのものを補償する保険だ。損害保険会社が引き受ける。座礁・衝突・火災・沈没など海難事故による船体の損傷修繕費や、他船との衝突賠償の一定割合をカバーする。
特別約款の種類——第5種と第6種
船体保険の補償範囲は、特別約款の種類によって異なる。主に「第5種」と「第6種」の2種類がある。
| 項目 | 第5種特別約款 | 第6種特別約款 |
|---|---|---|
| 補償する主要危険 | 沈没・転覆・座礁・火災・衝突(5大危険) | 5大危険+下記の追加危険 |
| 追加で補償される危険 | 爆発・共同海損行為 | 地震・津波・噴火・落雷・荒天・機器の事故・船体の潜在欠陥・荷役作業中の事故・船長等の過失・修繕者の過失 |
| 機器の事故 | 原則補償外(特別条項で追加可) | 補償対象 |
つまり第5種では機器の単純な故障は補償されない。航海中にエンジンが故障しても、外来の事故に起因しない機械的な故障であれば保険金は支払われない。第6種はより広い補償範囲を持つが、船齢・管理状態などの条件を満たした船舶に限定して引受が行われる。
免責事項——保険金が支払われない主なケース
免責事項は大きく「人為的要因」「自然損耗」「特定危険」に整理できる。
- 人為的要因(故意・重大過失・薬物)
- 自然損耗(摩耗・腐食)
- 特定危険(戦争・地震)
主な特約(オプション)
| 特約名 | 内容 |
|---|---|
| 機器の事故担保特別条項 | 第5種に機器事故の補償を追加 |
| 船底防汚塗料担保特別条項 | 船底塗装の損害を補償 |
| 不稼働損失保険 | 修繕中の経済的損失をカバー |
| 戦争保険 | 戦争・機雷などによる損害をカバー |
共同海損——座礁事故で特に重要な概念
座礁した際に積み荷を台船に移動させてから救助船で離礁させた場合など、事故による一連の費用(積み荷移動費用・救助費用など)は、船舶と積み荷それぞれの価値に応じて分担することが法律で定められている。これを共同海損と呼ぶ。船体保険はこの共同海損の船舶分担額をカバーする。今回の利島座礁事故でも、この共同海損の処理が発生する可能性がある。
P&I保険(船主責任保険)——船体保険でカバーできない賠償をカバーする
P&IはProtection(保護)とIndemnity(補償)の頭文字だ。船体保険でカバーされない第三者賠償や費用を補償する保険であり、自動車保険で言えば「対人・対物賠償」に相当する。
| 補償内容 | 具体例 |
|---|---|
| 対人損害 | 乗組員・港湾作業員・第三者の死傷 |
| 対物損害 | 港湾施設・他船・積み荷への損害 |
| 油濁損害 | 油流出による環境汚染・賠償責任 |
| 残骸撤去費用 | 座礁・沈没した船体の撤去費用 |
| 海難救助費用 | 救助契約に基づく費用 |
| 貨物損害賠償 | 輸送中の積み荷への損害賠償 |
P&I保険は損害保険会社ではなく、船主同士が相互に補償し合う相互保険組合(P&Iクラブ)という非営利団体が運営しているのが大きな特徴だ。日本では「日本船主責任相互保険組合」がこれを専門に行う唯一の組合だ。油濁等に関する賠償責任への備えとして、法律上または港湾受入条件として加入が求められるケースが多く、実務上は事実上の必須保険となっている。
今回の座礁事故でP&I保険が機能する場面は、サルベージ費用・残骸撤去費用、そして最も心配されている油流出が発生した場合の環境汚染賠償責任だ。



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