船の新燃料はCO2削減に本当に貢献しているのか——工務監督が感じる素朴な疑問

その削減は本物か 船の技術

断っておくが、私は環境の専門家でも研究者でもない。現役の工務監督として、素朴な疑問を書いてみたい。船の使用でCO2を減らしても、別のどこかでそれ以上のCO2を排出しているのではないかという疑問だ。現在の取り組みに意味はあるのか。

新燃料の現状——各燃料の問題点

IMOが2050年までの温室効果ガス実質ゼロを目標に掲げる中、船舶の次世代燃料として以下のものが候補に挙がっている。

燃料CO2削減効果主な問題点
LNG(液化天然ガス)重油比約26%削減メタンスリップ(未燃焼メタンの漏出)。メタンはCO2より温室効果が高く、評価期間によっては数十倍の温暖化影響を持つとされる。
メタノール重油比約10%削減エネルギー密度が重油の約半分。腐食性・引火点の低さ・毒性の問題
アンモニア燃料中に炭素を含まないため、理論上はCO2を排出しないN2O(亜酸化窒素)の発生。N2OのGWPはCO2の約300倍。難燃性・毒性
水素燃焼時CO2ゼロエネルギー密度が極めて低い。貯蔵・インフラが未整備。エンジンも開発途上
バッテリー(電気推進)航行中CO2ゼロ航続距離の限界。充電インフラの未整備。大型外航船への適用は現実的でない

素朴な疑問

これらの新燃料の話を聞くたびに、どうしても腑に落ちないことがある。

エネルギー密度の問題

現在船で使用している重油は、地中からくみ上げて精製して使う燃料だ。そのエネルギー密度は高い。一方、新燃料の候補として挙がっているものは、いずれもエネルギー密度が低い。

これまでと同じ出力を得ようとすれば、新燃料はより多量に消費しなければならない。タンクは大きくなり、貨物の積載量は減る。同じ距離を走るためにより多くの燃料を積む——これは根本的な非効率を内包している。

「新燃料を作るための燃料」という矛盾

さらに根本的な疑問がある。アンモニアも水素も、それ自体は自然界にそのままの形で存在しない。製造するためにはエネルギーが必要だ。そのエネルギーはどこから来るのか。

現状では多くの新燃料が化石燃料由来のエネルギーを利用して製造されており——この過程で複数回のエネルギー変換ロスが発生する。

重油を直接船で燃やす方が、エネルギーロスははるかに少ないはずだ。重油を使って作った密度のエネルギーを、さらに船で使ってまたロスを発生させる。この連鎖に意味があるのかという疑問が消えない。

「Well-to-Wake」という考え方

実はこの問題は、業界でも「Well-to-Wake(WtW)」という概念で議論されている。WtWとは、燃料の採掘・製造から船での燃焼まで、ライフサイクル全体でのCO2排出量を評価する考え方だ。

LNG燃料船やメタノール燃料船でCO2削減効果を得るには、カーボンニュートラルなメタンやメタノールを混ぜて使う必要がある。

つまり「燃焼時にCO2が出ない」というだけでは不十分で、製造段階から見た全体の排出量が問題なのだ。アンモニアや水素が「CO2ゼロ」とされるのはあくまで燃焼時の話であり、製造過程を含めたWtWで見れば、現状では必ずしもCO2削減になっていない。

私が感じること——本音

新燃料への移行は、技術だけの問題ではない。政治・経済・国際競争など、多くの要素が関わっている。

その中で現場の工務監督として感じるのは、「船上での排出削減」が本当にライフサイクル全体の排出削減につながるのかという疑問である。

エネルギー密度、燃料製造時のエネルギー源、インフラ整備など、解決すべき課題はまだ多い。

私は脱炭素そのものを否定したいわけではない。しかし、燃焼時だけでなく燃料製造から使用までを含めたWell-to-Wakeの視点で議論しなければ、本当の意味での排出削減にはつながらないのではないかと感じている。

現場で船を管理する立場として、今後の技術開発と実際の排出削減効果を注視していきたい。

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