救命いかだ・救命浮器の検査改正——乾舷高さと海水温度で変わる搭載要件

船舶検査

2022年4月に発生した知床遊覧船事故を受け、旅客船等の安全設備に関する規制が見直された。今回は、救命いかだ・救命浮器に関する搭載要件の改正について、工務監督として実際に対応した経験をもとに整理したい。正確な情報は、必ず国土交通省のHPで確認して頂きたい。

改正の背景

知床遊覧船事故を踏まえ、国土交通省は小型旅客船等の安全対策強化を進めている。その一環として、法定無線設備、非常用位置等発信装置、救命いかだ等、隔壁の水密化等について、段階的に義務化が進められている。

救命いかだ等については、低水温の海域で水中に留まったまま救助を待つことを避け、乗客等が水上で救助を待てるようにすることが主な目的である。

対象船舶

救命いかだ等の義務化の対象となるのは、一定の水温を下回る水域・海域を航行する船舶のうち、主に次の船舶である。

  • 旅客定員13人以上の船舶
  • 旅客定員12人以下の船舶のうち、事業の用に供するもの

ここで注意したいのは、単に旅客定員だけで一律に決まるわけではないという点である。船舶検査証書上の航行区域、実際の運航時期、対象となる水域の最低水温などを踏まえて判断される。

「搭載」または「搭載を要しない方法」

今回の制度では、対象となる船舶について、単に救命いかだ等を搭載するだけでなく、救命いかだ等の搭載を要しない方法を選択できる場合もある。

具体的には、次のような方法が示されている。

  • 一定の水温を上回る時期のみ航行する
  • 伴走船とともに航行する
  • 救助船を配備する
  • 船内に浸水しない構造とする
  • 母港から5海里以内のみを航行する

つまり、実務上は「救命いかだ等を積むか、積まないか」だけの話ではない。自船の航行区域、運航時期、船体構造、伴走船や救助船の体制などを含めて、どの方法で適合させるかを検討する必要がある。

水温による判断

救命いかだ等の要否を判断する上で、重要になるのが航行する水域・海域の最低水温である。

資料上は、最低水温がおおむね次のように区分されている。

航行する水域の最低水温対象となる船舶の考え方
10℃未満河川、港内、一部の湖を航行するものを除くすべての船舶
10℃以上15℃未満平水区域を超えて航行する船舶
15℃以上20℃未満平水区域を超えて航行する船舶。ただし、船内に浸水しない構造を有するもの、または母港から5海里以内のみを航行するものを除く

ただし、これはあくまで基本的な整理である。実際の判断では、船舶ごとの航行区域や運航期間に応じて、国交省が示す海域早見図等で水温を確認する必要がある。

また、一定の水温を下回る時期に運航しない場合には、救命いかだ等の積付けが不要となる場合もある。その場合でも、船舶検査証書の航行上の条件に、航行時期や航行区域の制限が記載されることになる。

乗込高さによる設備の違い

もう一つ重要なのが、水面から乗り込み場所までの高さである。

水面から乗り込み場所までの高さが1.2m以上となる場合には、スライダー等の乗込装置が必要となる。これは、非常時に乗客が海中へ落水する危険を減らし、できるだけ安全に救命いかだ等へ移乗できるようにするためである。

また、既存の救命いかだ等を引き続き使用する場合の経過措置では、乗込装置としてシューター、スライダー、乗込用はしご等が示されている。乗り込み高さが1.2m未満の場合は乗込装置の備付けは不要とされ、2.0m未満の場合には簡易はしごも使用可能とされている。

このため、実際の対応では、単に救命いかだ等の有無を見るだけでは不十分である。自船の乗込位置の高さを確認し、必要な乗込装置を検討する必要がある。

改良型救命いかだ・内部収容型救命浮器

今回の改正では、乗移時の落水危険性を軽減させた改良型の救命いかだや、内部収容型救命浮器が示されている。

従来型の救命いかだや救命浮器では、海中に入ってから乗り込むことを前提とする場合がある。一方、改良型の設備では、できるだけ落水を避けて乗り移ることが重視されている。

特に低水温の海域では、落水後の体温低下が重大なリスクとなる。そのため、単に浮く設備を備えるだけでなく、どのように乗り移るかが重要な検査上のポイントとなる。

現役工務監督から見ると——事前打ち合わせが重要

実際にこの改正へ対応して感じたのは、検査当日よりも事前準備の方が重要だということである。

確認すべき事項は多い。航行区域、運航期間、最低水温、乗込高さ、既存設備の取扱い、救命いかだ等を搭載するのか、あるいは搭載を要しない方法を選択するのか。これらを検査当日に初めて整理しようとすると、判断に時間がかかり、手戻りが発生しやすい。

特に、既存設備を活用できるのか、新たな設備投資が必要なのかは、船ごとの条件によって変わる。乗込高さの測定方法や、航行区域・運航期間の扱いについても、事前に検査機関と認識を合わせておく必要がある。

検査そのものは短時間で終わることが多い。しかし、その前段階で条件整理ができていないと、必要設備の判断や申請内容の確認に時間を要する。

工務監督の立場から言えば、今回の改正対応で重要なのは、制度を大まかに理解することに加えて、自船がどの条件に該当するのかを具体的に確認することである。

そのためには、早い段階で検査機関と打ち合わせを行い、航行区域、水温、乗込高さ、既存設備の扱いを整理しておくことが、最も現実的で確実な対応になる。

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