船の主機関には、多くの場合ターボチャージャー、いわゆる過給機が装備されている。
ターボチャージャーは、主機関から排出される排気ガスのエネルギーを利用してタービンを回し、その回転力でコンプレッサを駆動して、機関へ大量の空気を送り込む装置である。
ターボチャージャーは、主機関の出力、燃費、掃気圧、排気温度、黒煙の発生、機関全体の健全性に
関わる重要機器である。
また、ターボチャージャーは機関室内の空気を大量に吸い込むため、機関室へ外気を押し込む軸流通風機とも密接に関係している。
この記事では、ターボチャージャーの構造と仕組み、機関室通風との関係、保守整備で見るべきポイントについて、工務監督の視点から解説する。
ターボチャージャー(過給機)とは何か
ディーゼル機関では、シリンダー内に燃料を噴射し、その燃料をシリンダー内の酸素で燃焼させる。
したがって、燃料を多く燃やして大きな出力を得るためには、それに見合う空気量が必要になる。
自然吸気だけでは、シリンダー内へ送り込める空気量には限界がある。そこでターボチャージャーによって空気を圧縮し、より多くの空気をシリンダーへ送り込む。これが「過給」である。
船舶用ターボチャージャーは、低速・中速・高速のディーゼル機関やガス機関で使用され、機関効率や燃料消費、排出削減にも関係する重要な機器として扱われている。
ターボチャージャーの基本構造
ターボチャージャーは、大きく分けると次の3つで構成される。
- タービン側
- コンプレッサ側
- 軸受・ローター部
排気側にあるのがタービン、掃気側にあるのがコンプレッサである。
両者は一本の軸でつながっており、タービンが回ると同じ軸上のコンプレッサも回る。
タービン側|排気ガスで回される部分
タービン側には、主機関から排出された高温・高圧の排気ガスが流れ込む。
排気ガスはタービンノズルを通り、タービンホイールに当たる。
これによりタービンホイールが高速で回転する。
タービンを回し終えた排気ガスは、タービン出口から排気管へ抜けていき、船外に排出される。
ここで重要なのは、ターボチャージャーが排気ガスのエネルギーを「ただ捨てる」のではなく、
もう一度仕事に変えている点である。
主機関から出た排気ガスは、まだ大きなエネルギーを持っている。そのエネルギーでタービンを回し、同じ軸でつながったコンプレッサを回すことで、空気を圧縮している。
排気ガスはなぜタービンを回せるのか
主機関のシリンダー内で燃料が燃焼すると、高温・高圧の燃焼ガスが発生する。
この燃焼ガスはピストンを押し下げ、その力がクランクシャフトへ伝わることで推進力となる。
しかし、燃焼によって生まれたエネルギーのすべてが推進力になるわけではない。
燃焼によって得られたエネルギーの一部は主機関を回す仕事として利用されるが、
一部は冷却水へ熱として逃げ、一部は機関室へ放射熱として放出される。
そして大きな割合を占めるのが排気ガスとして失われるエネルギーである。
排気弁から排出されるガスは、すでに仕事を終えているように見えるが、実際には依然として高い温度と圧力を持っている。
例えば大型ディーゼル機関では、排気ガス温度が数百℃に達することも珍しくない。
機関室で排気管に近づくと強い熱気を感じるが、それは燃焼によって生まれたエネルギーが、まだ排気ガスの中に残っていることを意味している。ターボチャージャーは、この排気ガスが持つ圧力エネルギーと熱エネルギーを利用してタービンホイールを回転させる。
もしターボチャージャーが存在しなければ、このエネルギーはそのまま煙突から大気中へ捨てられてしまう。しかし実際には、排気ガスでタービンを回し、その回転力でコンプレッサを駆動して大量の空気を圧縮している。
その結果、
- より多くの空気をシリンダーへ送り込める
- より多くの燃料を効率よく燃焼できる
- 同じ大きさの機関でも大きな出力を得られる
- 燃費改善につながる
という効果が得られる。
ターボチャージャーは「主機関が捨てようとしているエネルギーを回収し、もう一度利用する装置」である。
コンプレッサ側|空気を圧縮する部分
コンプレッサ側では、タービンと同じ軸で回転するコンプレッサホイールが、機関室内または吸気ダクトから空気を吸い込む。吸い込まれた空気はコンプレッサホイールで加速され、ディフューザーやスクロール部で圧力を高められる。
その後、圧縮空気は掃気管、空気冷却器、掃気レシーバなどを通ってシリンダーへ送られる。
圧縮された空気は温度が上がるため、そのままシリンダーへ送るよりも、空気冷却器で冷却して密度を高めた方が有利である。空気を冷やすことで、同じ体積でもより多くの酸素をシリンダーへ送り込むことができる。
軸受・ローター部
タービンホイールとコンプレッサホイールは、一本の軸でつながっている。
この軸は高速で回転するため、軸受の状態は非常に重要である。
軸受の潤滑状態が悪い場合や、摩耗が進行した場合、ローターの振れが大きくなる。ローターの振れが大きくなると、翼とケーシングの接触、異常振動、異音、最悪の場合はローター損傷につながる。
そのため、ターボチャージャーは単なる「羽根車」ではなく、高速回転する精密機械として管理する必要がある。
ターボチャージャーと機関室通風の関係
ターボチャージャーを考えるうえで、機関室通風は非常に重要である。
コンプレッサは、基本的には機関室内の空気を吸い込んでいる。
主機関が大きな出力で運転されるほど、ターボチャージャーは大量の空気を吸い込む。つまり、機関室には常に十分な外気を供給する必要がある。
機関室通風は、単に「機関室を冷やすため」のものではない。
主機関や発電機、ボイラなどが燃焼に使う空気を供給する役割も持っている。機関室通風の目的として、燃焼に必要な酸素の供給と、主機関・補機からの放熱を逃がす冷却が挙げられている。
軸流通風機の役割
船の機関室には、外部から大量の空気を押し込むための軸流通風機が設けられている。
外部から取り込まれた空気は、吸気口やルーバーを通り、軸流通風機によって機関室へ供給される。そして、その機関室内の空気をターボチャージャーが吸い込み、圧縮して主機関へ送り込む。
ターボチャージャーだけを見ても、機関の状態は判断できない。
機関室通風の状態も、主機関の燃焼状態に影響する。
機関室通風が不足するとどうなるか
主機関や発電機が大量の空気を消費しているのに、通風機からの供給空気が不足すると、機関室内が
負圧気味になることがある。
機関室内の空気が不足すると、ターボチャージャーのコンプレッサ入口条件が悪化する。
その結果として、掃気圧が上がりにくくなり、燃焼に必要な空気量が不足することがある。
空気が不足すると燃焼状態が悪化し、排気温度上昇、黒煙の増加、出力低下、燃費悪化などにつながる可能性がある。
また、機関室通風は燃焼空気の供給だけでなく、機関室内の熱を逃がす役割も持っている。機関室通風では、燃焼用空気の供給と、機器から発生する熱を除去するための空気量の両方を考慮する必要がある。
したがって、ターボチャージャーの不調を疑う場合でも、機関室通風機の運転状態、吸気口の閉塞、ルーバーの汚れ、機関室温度などを確認する必要がある。
ターボチャージャーと掃気圧の関係
ターボチャージャーの状態を見るとき、掃気圧は非常に重要な指標である。
掃気圧とは、シリンダーへ送り込まれる空気の圧力である。
掃気圧が十分であれば、シリンダー内に必要な空気量を確保できる。
一方、掃気圧が下がると、燃料を燃やすための空気が不足し、不完全燃焼につながる。その結果として、排気温度上昇、黒煙増加、燃費悪化、出力低下、シリンダー間の温度ばらつきが発生することがある。
工務監督として運転データを見る場合、掃気圧だけを単独で見るのでは不十分である。
主機負荷、排気温度、ターボチャージャー回転数、空気冷却器入口・出口温度、機関室温度、機関室通風機の運転状態などを合わせて確認する必要がある。
掃気圧が低いからといって、必ずしもターボチャージャー単体の不具合とは限らない。
吸気フィルター、空気冷却器、掃気管、排気側汚損、燃焼状態、さらには機関室通風の状態まで含めて考える必要がある。
空気冷却器との関係
ターボチャージャーで圧縮された空気は温度が上昇する。
空気は圧縮されると温度が上がるため、そのままでは密度が下がり、十分な酸素量を確保しにくくなる。そこで、船舶用ディーゼル機関では、圧縮空気を空気冷却器で冷却してからシリンダーへ送る。
空気冷却器が汚れると、空気の冷却効果が落ちる。
現場では、ターボチャージャーを疑う前に、空気冷却器の汚れ、海水側の詰まり、冷却水温度、空気側の差圧などを確認することも多い。
ターボチャージャーと空気冷却器は、別々の装置ではあるが、機関性能を見るうえでは一体で考える必要がある。
ターボチャージャーの汚損
ターボチャージャーは、排気側と掃気側の両方で汚損が発生する。
排気側の汚損
排気側では、燃焼生成物、煤、未燃分、重油由来の付着物などがタービンノズルやタービンホイールに付着する。特に重油を使用する機関では、燃焼状態や燃料性状の影響を受けやすい。
排気側が汚れると、排気ガスの流れが悪くなり、タービン効率が低下する。
タービン効率が低下すると、ターボチャージャー回転数が上がりにくくなり、掃気圧低下、排気温度上昇、燃費悪化につながることがある。
掃気側の汚損
掃気側では、吸入空気中の汚れ、油分、ミストなどがコンプレッサホイールやディフューザーに付着する。コンプレッサ側が汚れると、空気を圧縮する効率が下がる。
その結果、掃気圧が下がり、燃焼状態にも影響する。
吸気フィルターの状態、機関室内の清浄度、油ミストの発生状況なども、コンプレッサ側汚損に関係する。特に機関室内の環境が悪い場合、吸入空気に含まれる汚れが増え、コンプレッサ側の汚損が進みやすくなる。
サージングとは何か
サージングとは、コンプレッサ側の空気の流れが不安定になり、圧縮空気が正常に流れなくなる現象である。発生すると、異音、振動、掃気圧の変動、空気の逆流などが起こることがある。
原因としては、コンプレッサ側の汚損、空気冷却器の詰まり、掃気系統の抵抗増加、急激な負荷変動、排気側の汚損、機関側の燃焼不良、機関室通風不足による吸入条件の悪化などが考えられる。
サージングが起きた場合、ターボチャージャー単体だけを疑うのではなく、吸気側、掃気側、排気側、主機関の燃焼状態を含めて総合的に見る必要がある。
ターボチャージャーの運転中洗浄
運転中洗浄は、タービン側やコンプレッサ側の汚れを、運転中に洗浄するための作業である。
ただし、洗浄はむやみに行えばよいものではない。
洗浄水量、洗浄タイミング、負荷条件、実施間隔はメーカーの指示に従う必要がある。
不適切な洗浄は、熱衝撃、翼損傷、腐食、汚れの固着、振動増加につながる可能性がある。
現場では「汚れているから洗えばよい」という単純な判断ではなく、運転状態とメーカー基準を踏まえて実施することが重要である。
開放整備で確認するポイント
ターボチャージャーは高速回転機械であるため、開放整備では多くの確認項目がある。
タービンホイール
タービンホイールでは、翼の欠け、割れ、エロージョン、腐食、接触痕、異常摩耗を確認する。
排気側は高温環境で使用されるため、熱影響を受けやすい。
燃焼状態が悪い場合、汚損や腐食が進みやすくなることもある。
コンプレッサホイール
コンプレッサホイールでは、翼の欠け、曲がり、腐食、接触痕、汚損、異物吸入の痕跡を確認する。
コンプレッサ側の損傷は、吸気側の異物混入や軸受異常、ローターの振れと関係することがある。
軸受
軸受はターボチャージャーの要である。
タービンとコンプレッサをつなぐローターは高速で回転しているため、軸受状態が悪化すると重大な損傷につながる。
確認項目としては、軸受摩耗、焼付き痕、潤滑油の状態、油穴の詰まり、異物混入、軸方向クリアランス、半径方向クリアランスなどがある。
潤滑油管理が悪いと、ターボチャージャーの軸受損傷につながる。
そのため、ターボチャージャー単体だけでなく、主機潤滑油系統の状態も確認する必要がある。
ローターのバランス
ターボチャージャーは高速回転機械である。
わずかなアンバランスでも、大きな振動となって現れる。
そのため、ローターやホイールを交換した場合、あるいは損傷が疑われる場合には、バランス確認が重要になる。
ターボチャージャーのオーバーホールでは、分解、洗浄、点検・計測、必要に応じた再バランス、試験などが行われることがある。
工務監督が見るべき運転データ
工務監督は、ターボチャージャーを直接操作するわけではない。
しかし、整備計画やトラブル判断では、関連するデータを確認する必要がある。
掃気圧
ターボチャージャーの性能低下が現れやすい項目である。
負荷に対して掃気圧が低い場合は、ターボチャージャー、空気冷却器、掃気系統、通風状態などを確認する。
排気温度
掃気不足や燃焼不良があると、排気温度が上がることがある。
シリンダーごとの排気温度ばらつきも重要である。
ターボチャージャー回転数
回転数計が付いている機種では、主機負荷に対してターボ回転数が適正かを確認する。
回転数が低い場合は、排気側エネルギー不足、汚損、コンプレッサ側抵抗増加などを疑う。
空気冷却器前後の温度
空気冷却器が正常に機能しているかを見るために重要である。
冷却不良があると、掃気温度が上がり、燃焼空気密度が下がる。
機関室通風機の運転状態
主機関が大量の空気を消費する以上、機関室通風機の状態も重要である。
軸流通風機が停止していたり、能力が不足していたり、吸気口やルーバーが詰まっている場合、ターボチャージャーの吸入条件が悪くなる。したがって、ターボチャージャーの不調を疑うときには、機関室通風も同時に確認する必要がある。
工務監督の実務での関わり
工務監督がターボチャージャーに関わる場面は多い。
例えば、ドック時の開放整備計画、メーカー手配、部品見積の確認、予備品管理、整備履歴の確認、運転データの傾向確認、不具合時の原因切り分けなどである。
ターボチャージャーは、単独で見る装置ではない。
主機関、排気系統、掃気系統、空気冷却器、機関室通風、潤滑油系統とつながっている。
そのため、工務監督としては「ターボチャージャーが悪い」と決めつけるのではなく、機関全体の状態を見ながら判断する必要がある。掃気圧が低い場合でも、ターボチャージャーの汚損なのか、空気冷却器の汚れなのか、機関室通風不足なのか、排気側の問題なのかを切り分ける必要がある。
まとめ
ターボチャージャーは、排気ガスのエネルギーを利用して空気を圧縮し、主機関へ送り込む装置である。その役割は、単なる出力向上だけではない。掃気圧の確保、燃焼状態の改善、燃費改善、黒煙抑制、排気温度管理、主機関性能の維持に大きく関わっている。
また、ターボチャージャーは機関室内の空気を大量に消費する主機関と密接に関係している。そのため、機関室へ十分な空気を供給する軸流通風機や、機関室通風の状態も重要である。
ターボチャージャーだけを見ても、機関の状態は判断できない。掃気圧、排気温度、ターボ回転数、空気冷却器、機関室通風、潤滑油、整備履歴を総合的に見て判断する必要がある。
工務監督にとってターボチャージャーは、主機関の性能を支える重要な回転機械であり、船の安定運航を支える重要な管理対象である。



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