AIが仕事を奪うと、世間では騒がれている。工務監督である私は、この話題をどう受け止めているか。結論から言えば、脅威とは感じていない。
理由はシンプルだ。工務監督の仕事は、人と動く領域が大きい。造船所との交渉、乗組員とのやりとり、トラブル時の現場指揮。こうした場面はAIには代替できない。データを分析することと、人を動かすことは、まったく別の話だ。AIに対しては、むしろ便利な道具として歓迎している。そのうえで、現場の視点から率直に書いてみたい。
「勘」ではなく「経験の裏付け」という話
工務監督の判断は、一見「勘」に見えることがある。しかし実際には、長年の経験から積み上げられた裏付けがある。データにない文脈や、現場の空気から読み取るものがある。AIが数値を示しても、その数値が何を意味するかを判断するのは、経験を持つ人間だ。
例えば、機器を目で見て、音を聞いて、においを感じて異常に気づくことがある。センサーが拾えないものを、人間は五感で拾っている。この部分は、AIには簡単には埋められない。経験とはそういうものだと思っている。
期待していること
これまで工務監督の整備計画は、過去の実績と経験をベースに組み立ててきた。その船がこれまでどう動いてきたか、どこに傾向があるか——そうした積み重ねが計画の土台になっている。AIとデータの活用によって、これがより客観的な裏付けをもとに再構築できる可能性がある。その点は素直に期待している。
また、不具合が発生したとき、AIに状況をインプットして原因の候補や調査箇所をアウトプットさせる——そういった使い方ができるようになれば、仕事の効率は大きく変わる。この領域の進化には注目している。
現状の「あと一歩」
ただし正直に言えば、現状のAIにはまだ物足りなさを感じている。
不具合の内容を入力すると、取扱説明書の内容を要約したような返答が返ってくる。情報は網羅的だが、絞り込みがされていない。現場で必要なのは「この状況ではここを見ろ」という判断だ。可能性を広げる答えではなく、可能性を絞り込む答えが欲しい。
また、実際の状況と異なると感じて突っ込みを入れると、「その可能性もあります」と返ってくることがある。自信を持って答えてほしい場面で、逃げられているような感覚になる。
根本的な課題として、船舶の機器に関するあらゆる情報をAIにインプットすること自体、現状では難しい。データが揃っていなければ、アウトプットの精度も上がらない。ここが整備されていくかどうかが、今後の分かれ目になると思っている。
乗組員への恩恵
AIと船の組み合わせで、最も恩恵を受けるのは乗組員かもしれない。機関室には、人が監視しきれない箇所が数多くある。当直中でも、すべての機器を常時目視することは不可能だ。センサーとAIによって、そうした場所まで24時間監視できるようになれば、見落としのリスクは大きく下がる。乗組員の精神的な負担も軽減されるだろう。工務監督よりも、船の上で働く人たちの仕事が先に変わっていくかもしれない。
AIは道具
AIは工務監督の仕事を奪うのではなく、仕事のやり方を変えていく道具だと思っている。使いこなせる工務監督と、そうでない工務監督の差は、これから広がっていくかもしれない。ただ、AIがどれだけ賢くなっても、最後に判断し、人を動かすのは人間だ。その本質は変わらない。道具は道具だ。使う側の経験と判断があってこそ、道具は力を発揮する。



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